パソコン、スマートフォンなど、一昔前では想像もつかないほど、高度で複雑な製品が世に出ています。現代のものづくりを実現するためには、材料の強度はもちろん、複雑な形状に加工できるしなやかさ(靭性)が求められます。
今回ご紹介する曲げ試験は、材料や製品の強度・特性を調べる重要な試験です。シンプルな試験で、幅広い材料や製品で実施されている基本的な試験でもあります。
この記事では、曲げ試験の概要や目的、実施される主な試験方法についてご紹介していきます。「曲げる」という作業でもさまざまな方法がありますので、最後まで読み進めて曲げ試験に対する理解を深めていただければと思います。
目次
曲げ試験とは?
曲げ試験は、その名の通り試験片を「曲げる」試験で、材料の機械的性質(外からの力に対する特性)を調べる試験の1つです。両端から引っ張る引張試験、ギュッとつぶす圧縮試験と同様に、材料の強度を調べる試験として実施されています。
丸棒や角棒状の試験片を曲げていき、曲げに対する強度をチェックしていきます。強い荷重をかけて曲げたり、何度も繰り返し曲げるなど実施内容はさまざまです。
曲げ試験では、材料や製品の靭性(じんせい)を確かめることができます。靭性とは、端的に言うと材料が持つ「粘り強さ」のことです。外から力を与えられてもすぐに折れず、グニャッと変形していく性質があります。たとえば、銅や鉄などの金属は靭性があるため、加工がしやすく、鍋などの調理器具や自動車のボディなどの複雑な形状の材料として使用されています。曲がり具合を調べることで、加工する材料の選定に役立てられています。
また、曲げに対する強さや変形の具合をチェックしていくことで、材料の信頼性や耐荷重、耐用年数などを調べることができます。試験で得られるデータは材料選びだけでなく、製品完成後のメンテナンス頻度などの調整にも役立てられています。
曲げ試験を実施する目的
曲げ試験を実施する目的は、材料の強度や性質を確認し、製品づくりに活用することです。
たとえば、鉄筋などの金属は建造物やダムなどの荷重のかかるものの材料として使われます。もし重みに耐えきれず、すぐに折れてしまえば、大事故につながる恐れがあります。地震や台風などの自然災害が多い日本では特に、外からのさまざまな力に耐える材料であるかが重要になります。曲げ試験を実施することで、材料が利用用途に適した性質を持っているかどうかを確かめることができます。
また、曲げ試験は、材料の曲げ加工のしやすさを確かめる試験でもあります。材料は強ければ強いほど良いというわけではなく、理想通りの強度で曲がってくれるかどうかも重要です。想定よりも柔らかすぎれば強度に不安ができ、反対に硬すぎれば加工しづらくなりコストがかかることがあります。試験で得られるデータは、ものづくりに適した材料を選ぶための指標として活用できるのです。
曲げ試験の対象となる主な材料・製品
曲げ試験は非常に多くの材料や製品で実施されます。前述した金属をはじめとして、プラスチックやセラミックス、木材などでも実施します。プラスチックのように温度や湿度によって強度が変わる材料もあるため、利用環境を想定した試験が実施されることが多いです。
曲げ試験が実施される製品としては、半導体製品や基盤などの電子機器部品、歯科インプラントや骨折治療具、人工骨なども挙げられます。
具体的な試験方法や使用する試験機は材料の種類によって異なります。対応できる検査会社も材料の種類によって異なりますので、実施の可否を問い合わせる必要があります。
後章で紹介する試験方法も数多くある曲げ試験の一部です。詳しい試験方法は検査会社にお問い合わせください。
曲げ試験の主な試験方法
曲げ試験ののうち金属に用いられる試験方法は、「押し曲げ法」「巻き付け法」「Vブロック法」などがあります。それぞれ曲げる角度や使用する試験機、対象となるケースが異なります。金属やプラスチックなどについては、指定の温度管理と併せて実施されることが多いです。
また、使用する試験片はJISによって形が定められています。これはどの金属またはプラスチックでも同じ条件で実施することで、曲げ強度を検証しやすくするためです。仮に、試験の度に試験片の厚さや寸法がバラバラだと、他の材料との比較がしづらくなるだけでなく、前回の結果とも比較しづらくなり、正確な強度を確かめられなくなります。規格に準じた試験片を使用することで、優れた材料を安全に使用できるようになります。
押し曲げ法(ローラ曲げ法)
押し曲げ法は、試験片を2つの支えに乗せて、中央に先端が丸い押金具を当てていきます。徐々に荷重を加えていき、規定の角度まで曲げていきます。試験片に亀裂や破断(2つに折れてしまうこと)が起こるまでの曲げ強度などを調べていきます。
引用:3点曲げ試験
巻き付け法
巻き付け法は、芯棒や型などに試験片を巻き付けていく方法です。規定の角度や型の形状まで荷重をかけていき曲げ強度を確かめていきます。比較的荷重がかけやすく、手工具を用いる場合などに実施される試験です。上から畳んでいくこともあれば、下図のように縦にたたむ場合もあります。
Vブロック法
Vブロック法は、文字通りV字のブロックの上に試験片を乗せて荷重をかけていく試験です。Vブロック法はJISの材料規格によって指定された場合に実施します。Vブロックの溝の角度は型によって異なるため、曲げる角度に合わせて使用されることになります。
様々な材質に用いられる試験方法としては、荷重を加える箇所に着目した「3点曲げ試験」「4点曲げ試験」があります、また「屈曲試験」、何度も曲げて破断するまでの回数を調べる「反復屈曲試験」など、曲げ試験は豊富な種類があります。
曲げ試験は材料や製品の強度を調べる重要な試験
曲げ試験はその名の通り、材料や製品を曲げるシンプルな試験です。しかし、曲げ試験で得られるデータはさまざまな加工技術や製品の安全性に影響し、安心・安全な材料や製品をつくるためには欠かせない試験です。半導体製品や基盤などの複雑な製品では、加工しやすく強度のある材料が求められます。曲げ試験は現代のものづくりを支える試験でもあるのです。
前述した通り、曲げ試験の具体的な実施内容は材料や製品によって異なります。検査コンサルティング会社を利用するなどして、得たいデータを確実に入手できるようにしていきましょう。
強度を調べる試験は曲げ試験の他にも
材料の強度や耐性を測る試験は曲げ試験の他にもさまざまあります。曲げ試験と併せて実施する試験も多いので、併せてご確認ください。
1.引張試験
通常の引張試験では、破断や変形が起こるまで負荷を上げていき、両端を引っ張っていきます。クリープ試験とは異なり短時間で済む試験です。試験片の機械的性質を知るための基本的な試験です。
詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
2.圧縮試験
通常の圧縮試験は、潰れたり変形が起こるまで負荷を増やしていきます。どれくらいの重さまで耐えられるかを確かめるシンプルな試験です。プラスチックやダンボール箱のような包装容器で実施する試験です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3.衝撃試験
引張や圧縮、曲げなどの負荷を高速でかける試験です。勢いよく叩いたり、鋼球を落とすなどダイナミックな試験です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。