頑丈に見える金属も、強く引っ張られたり何度も曲げられたりすると破壊されてしまいます。材料が壊れる要因はさまざまですが、その1つに、目には見えない速度でじりじりと忍び寄る不思議な原因があります。それが、今回のテーマであるクリープ現象です。
日常生活はなかなか目にしないクリープ現象ですが、ガスの配管や発電所、原子炉などでは考慮しなければならない現象です。今回ご紹介するクリープ試験は、材料で起こるクリープ現象を把握し、材料の強度や寿命を調べる重要な試験です。
この記事では、クリープ現象の概要と、クリープ試験の主な試験方法等について解説していきます。できる限り難しい単語を使わずにお伝えしていきますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
目次
クリープ試験法とは?
クリープ試験は、試験片に長時間一定の負荷をかけていく試験です。一定の温度に加熱した状態で実施することが多く、クリープ現象を生じさせることにより、試験片が破断するまでの温度や試験時間、時系列データなどを取得していきます。※クリープ現象については次の章で詳しく解説します。
設定する温度は条件によって異なりますが、金属であれば基本的に使用環境に近い数百℃程度で実施します。プラスチックやコンクリートはもっと低い温度からクリープ現象が見られるため、利用環境に近い温度で実施されることになります。
クリープ試験は非常に長期間実施する試験で、短いものでも数時間、長い条件になると1000時間、10000時間以上という膨大な試験日数を要することもあります。ちなみに世界最長記録は日本のNIMS(物質材料研究機構)が記録した356,838時間(14,868日、約41年)で、ギネス世界記録として認定されています(2021年11月執筆時点)。40年以上、ひたすら金属を引っ張り続けるという途方も無く地道な試験です。それだけ材料の強さや耐久性を測る研究は重要視されているということでもあります。
クリープ試験は厳密な温度管理が必要です。鉄のような金属は熱膨張を起こすため、クリープによる変形か熱膨張か、判断が難しくなる可能性があります。材料の温度を一定に保つことは当然で、さらに試験機の周囲の温度もプラスマイナス1℃以内の温度に保たれます。針に糸を通すような作業を乗り越えることで、強い材料や部品を生み出すことができるのです。
クリープ試験は長時間実施する試験のため、試験条件のわずかな違いでも結果が大きく変わります。そのため、実施できる検査会社は限られます。クリープ試験の実施を検討されている方は、クリープ試験が実施できる検査会社に問い合わせる必要があります。
クリープ現象とは?
クリープ現象とは、物体に一定の荷重を持続的に加えると、時間とともにゆっくりと物体が変形していく現象です。目には見えないほどゆっくりと延びていき、「忍び寄る(creep)」ように変形していく様から「クリープ現象」と呼ばれます。なお、AT車のエンジンで見られるクリープ現象とは別物です。
引用:クリープと疲労による破壊
また、クリープ現象は温度が高くなるほど起こりやすくなります。常温ではビクともしなかった材料でも、化学プラントや原子炉などの高温環境では強度や寿命に変化が起こります。クリープ試験は材料や製品のクリープ現象を想定した重要な試験です。
クリープ試験を実施する目的
クリープ試験の目的は、材料や部品などの耐久性や寿命を把握するためです。クリープ試験を実施すると、時間ごとの変形の具合を示す「クリープ曲線」というデータが得られます。クリープ試験を実施し、クリープ曲線を求めることで試験片が時間経過とともにどれくらい変化するかを予測できるようになります。ここで得られるデータを基にメンテナンスや部品交換のスケジュールが検討されます。
また、クリープ試験を実施することで、長時間の使用に耐える材料の選定や設計に活用できます。航空機のエンジンや発電機器などの材料や部品は、長時間高温と負荷がかかりつづけます。実際の使用条件に耐えられるような材料や部品でなければ、故障の原因となり大きな事故につながる恐れがあります。
クリープ試験と疲労試験の違い
材料の長期的な耐久性や寿命を確かめる試験として、疲労試験というものがあります。
クリープ試験が主に高温下で長期間実施する試験であるのに対し、疲労試験は負荷を何度も繰り返していく試験です。細い針金を何度も繰り返しグニャグニャと曲げていくと、やがて切れてしまうことをご存知の方は多いと思います。小さな負荷であっても、何度も繰り返し負荷がかかることで試験片に亀裂が入り、破壊されることがあります。こうした金属の”疲労”を測定するため、変形や破断が起こるまでの繰り返し回数をチェックするのが疲労試験です。
金属疲労において、疲労試験はクリープ試験と同様に重要な試験です。そのため、クリープ試験の実施を検討する場合は、疲労試験も併せて検討する必要があります。
詳しくは別の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
クリープ試験の主な試験方法
クリープ試験は、後述する引張が一般的です。引張以外にも、目的に応じて圧縮・曲げ試験が実施されます。いずれも一定の温度で負荷をかけ、破断が起こるまでのひずみや時間を測定する点で共通しています。また、時間経過による試験片の伸び方を細かく計測することで、時間経過でどのように変形するかを示す「クリープ曲線」を求めることができます。
そのため、クリープ試験はクリープ曲線を調べる「クリープレート試験」、破断までの時間を調べる「クリープラプチャー試験」と分かれます。
引張クリープ試験
高温下で引っ張り続ける、最もオーソドックスな試験方法です。一方向から引っ張り続けるのが一般的ですが、実際の使用環境を想定して、ニ軸・三軸の複数の方向から引っ張り続ける場合もあります。
破断が起きたら試験を終了し、破断した時間を記録します。仮に試験時間内に破断が起こらなかった場合は、試験片から負荷を取り除き、一定の時間を置いて残ったひずみと負荷を取り除く直前のひずみを差し引いたひずみ(クリープ回復)を測定することがあります。
圧縮クリープ試験
圧縮クリープ試験は、試験片をギュッとつぶしていく試験です。ただし試験機の多くが引張負荷しかかけられないため、カゴ状の治具(対象物を固定する道具)を用いて試験片を圧縮していきます。金属材料の他に、ゴムやプラスチック、コンクリートなどで実施される試験です。
曲げクリープ試験
曲げクリープ試験は、指定の温度下で長期間曲げ負荷をかけ続ける試験です。通常の曲げ試験と同様、2つの支柱に試験片を乗せて、試験片の中央に負荷をかけて曲げていきます。荷重を加える箇所は1ヶ所(3点曲げ)または2ヶ所(4点曲げ)が一般的です。金属材料をはじめとして、プラスチックやセラミックスなどで実施される試験です。
クリープ破断試験(クリープラプチャー試験)
試験片の破断が起こるまでの時間を確かめるクリープ試験は、クリープ破断試験(クリープラプチャー試験)と呼ばれます。ストレスラプチャー試験と呼ぶこともあります。
クリープラプチャー試験の例として、複数の試験片をそれぞれ異なる温度・負荷をかけ、破断までの時間を計測する方法があります。たとえば温度を800℃~1000℃、負荷を10~100MPaに設定して、それぞれの組み合わせごとの破断時間を記録していきます。一般的に温度や負荷が高くなるほど破断時間が短くなる傾向があるため、材料の使用環境にあわせてさまざまな条件で比較することが大切です。
クリープ試験は材料の強度を調べるうえで重要な試験
クリープ試験は主に高温下での材料や部品の耐久性を調べる試験です。化学プラントや原子炉などの過酷な環境で使用される材料や部品には欠かせない試験です。
試験方法は厳密で、徹底した温度管理と膨大な時間を要する地道な試験です。しかし、この地道な試験によって材料の強度や寿命について細かく分析でき、現代技術を支える材料の選定などに役立てられていきます。
実際の試験方法については材料やご希望の条件によって異なります。詳しい実施内容については、クリープ試験を実施できる検査会社にお問い合わせください。
強度を調べる試験はクリープ試験以外にもさまざま
今回ご紹介したクリープ試験の他にも、材料の強度を確かめる試験は数多く存在します。材料や製品によっては以下の試験も実施対象になることも考えられます。
1.引張試験
通常の引張試験では、破断や変形が起こるまで負荷を上げていき、両端を引っ張っていきます。クリープ試験とは異なり短時間で済む試験です。試験片の機械的性質を知るための基本的な試験です。
詳しくはこちらの記事でご紹介しています。
2.圧縮試験
通常の圧縮試験は、潰れたり変形が起こるまで負荷を増やしていきます。どれくらいの重さまで耐えられるかを確かめるシンプルな試験です。プラスチックやダンボール箱のような包装容器で実施する試験です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3.衝撃試験
引張や圧縮、曲げなどの負荷を高速でかける試験です。勢いよく叩いたり、鋼球を落とすなどダイナミックな試験です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
4.疲労試験
本文でもお伝えしましたが、疲労試験は試験片に繰り返し負荷を加えて耐久性を調べる試験です。クリープ試験が温度と破断時間を調べるのに対し、疲労試験は破断までの回数(繰り返し数)をチェックしていきます。クリープ試験と同様、金属材料などの耐久性や寿命を調べる重要な試験です。
こちらの記事でぜひ比較してみてください。