スマートフォン、タブレット、音楽プレーヤーや携帯ゲーム機など、片手で持ち歩ける小型のモバイル機器は、現代に無くてはならない存在になっています。
しかし、小型化されたからこそ起こりやすくなったのが、落下による破損です。実際にスマホを落として画面に亀裂が入ってしまったり、うまく機能しなくなってしまった経験がある方もいるでしょう。
今回ご紹介する鋼球落下試験は、私たちに身近な製品の耐久性を調べる試験です。ただ落下させるのではなく、細かな工夫がされています。また、鋼球落下試験が含まれる耐おもり落下性の試験には鋼球以外の試験方法として他に2種類ありますので、併せてご紹介していきます。
目次
鋼球落下試験とは?
鋼球落下試験は、対象に一定の重量の鋼球を一定の高さから落としてヒビや故障などの異常が生じるかを調べる試験です。材料をはじめ、部品や製品で実施することもあります。
「落下試験」というと、対象物の方を落とすイメージがあるかもしれません。対象物を落とす落下試験として自由落下試験があります。ただ、落下姿勢が安定しないため正確な耐久性を確認しづらいデメリットがあります。対して、鋼球を対象物に落とす鋼球落下試験は落下衝撃の再現性が高く、調べたい箇所にピンポイントで衝撃を与えることができます。
どれくらいの重量の鋼球を、どれくらいの高さから落とすかで衝撃の大きさが異なります。そのため対象を複数用意し、さまざまな条件で強度や破損の具合を比べることがあります。スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器の場合、どのように壊れるかも重要な確認事項です。たとえば、内部のバッテリーが破損すると発熱・発火の危険があるため、見た目のダメージだけでなく、内部にどのような影響を与えるかも確かめる必要があります。
鋼球落下試験を実施する目的
鋼球落下試験の目的は、材料や製品の落下衝撃に対する耐久性と、衝撃を与えた後の状態の変化を調べることです。
鋼球落下試験は狙った位置に衝撃を与えられるため、材料や製品のさまざまな部分の耐久性を調べることができます。たとえばスマートフォンであればガラス部分や裏面、角などにそれぞれに衝撃を与えることで、耐久性や壊れ方を細かくチェックできます。また、同じ場所に衝撃を与えられるため、安定した衝撃負荷を繰り返し与えることも可能です。再現性の高い試験方法であることから、落下衝撃に対する耐久性を正確に確認できる試験方法として評価されています。
また、衝撃を与えた後の壊れ方を確認することも大きな目的です。スマートフォンやタブレット、ハンディファン(携帯扇風機)などの製品には、充電するためのリチウムイオンバッテリーが入っています。このリチウムイオンバッテリーは衝撃に弱く、落下衝撃によって亀裂が入るなどすると発熱や発火の恐れがあります。実際にハンディファンやモバイルバッテリーを落としたことで発火する事故もあります。
リチウムイオンバッテリーおよびハンディファンの事故についてはこちらの記事でもご紹介しています。
このように、鋼球落下試験の結果は製品の品質向上に役立てられています。より丈夫で、安全な製品をつくるためにも鋼球落下試験は重要な試験です。そして、鋼球落下試験を実施することで、材料や製品がどのように壊れ、どのような危険があるのかを把握できます。事前に把握した危険については取扱説明書などに表示され、消費者への注意喚起と事故防止に役立っています。
鋼球落下試験の対象となる主な製品
鋼球落下試験の対象は、スマートフォンやタブレットなど持ち運べる大きさのモバイル機器を始め、ハンディファン、電気シェーバーや携帯ゲーム機などが挙げられます。他にもガラスコップなどの食器や容器などで実施されることもあります。
また、バケツやプランターなどに使用される硬質プラスチックや、透明な仕切り板として使用されるアクリル、さまざまな塗膜などでも実施します。製品だけでなく、スマートフォンの内部にある基板やバッテリーなどの部品でも実施することもあります。
なお、ダンボールなどの大きな包装容器や、テレビや家電製品などの大きな製品には適さない場合があります。使用環境を想定した試験を実施したい場合も、鋼球落下試験ではなく自然落下試験の方が適している場合もあります。落下衝撃を与えたい材料や製品によって適した試験方法を選ぶ必要があります。
鋼球落下試験の試験方法
鋼球落下試験の試験方法は至ってシンプルです。対象を試験機に固定し、一定の重量の鋼球を一定の高さから落とします。鋼球の重量は数g程度のものから1kgを超えるものまでさまざまです。高さについては使用環境に近い高さに設定されることが多く、スマートフォンであれば腰や胸の高さに近い80cm~100cm程度が候補となります。
試験では鋼球を落下させる高さや鋼球の重さを変えて設定します。そのため試験機以上の高さや用意されている鋼球以上の重さには指定できません。
また、鋼球落下試験だけでは想定の使用環境を再現できない場合があります。対象の材料や製品によっては、後述する鋼球以外のものを落とす試験方法を検討する必要があります。
落とし方・落とすもので試験内容も変わる
おもりを落下させる(耐おもり落下性)試験として、鋼球落下試験の他に2つ紹介します。
落体式(Falling-weight method)
落体式は先端が丸い円柱形のおもりを外筒に沿って落下させます。塗膜の割れ、破損、弾力性などを測定する際に使用します。(デュポン式との違いはおもりの先端と受け台の隙間が35mmあることです。)
デュポン式(DuPont method)
引用:QC-641 デュポン式落下衝撃試験機 – Cometech 株式会社
先端が丸いおもりを、一定の高さから落とします。落下させたら室温で1時間放置して損傷の具合をチェックします。落体式との違いは、おもりの丸みと受け台にあるくぼみに隙間がないことです。エッジ部(くぼみのフチ)の衝撃と、丸いくぼみによる変形を同時に与えることができます。主に塗膜(コーティング材)やプラスチックシートなどで実施される試験です。
材料・製品の強度を調べる鋼球落下試験
鋼球落下試験は製品となる材料をはじめ、私たちが持ち歩くさまざまな製品の強度を調べることができる重要な試験です。製品の強度や破損による危険を事前に把握でき、消費者がより安全に製品を使用することができるようになります。
「落とすだけ」のシンプルな試験ですが、落とすものや落とし方で試験内容や得られるデータが異なります。どのような試験が適しているかは対象によって異なりますので、実施を検討されている方は検査会社にお問い合わせください。
強度を調べる試験は鋼球落下試験の他にも
材料や製品の強度を調べる試験は、鋼球落下試験の他にもさまざまあります。得たいデータによって試験方法も細かく分かれていきますので、鋼球落下試験と併せてご検討ください。
引張試験
対象を両端から引っ張り、「引張強度」を調べます。金属やプラスチックなど、幅広い材料で実施します。材料の機械的性質を調べる基本的な試験です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
圧縮試験
引張試験とは反対に、対象を両端からギュッとつぶしていく試験です。金属やプラスチックなどの材料を始めとして、ダンボール箱や発泡スチロールなどの包装容器などでも実施されます。落下試験を実施する材料や製品では、こちらの試験も実施することが多いです。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
衝撃試験
材料や製品に高速の負荷をかけて強度や破損具合を確かめる試験です。今回ご紹介した鋼球落下試験もその1つに含まれます。対象をハンマーで叩くダイナミックな試験があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。