私たちが日頃使用するものの多くが、劣化したり破損するなどして使えなくなります。うっかり物を落として壊してしまった経験がある方も多いでしょう。
材料や製品の強さ(強度)を確かめるためには、それらがどれくらいの強さで壊れるのか?どれくらい粘り強いか、あるいはもろいかを調べる必要があります。
この記事では、材料や製品の強度を調べる試験の1つ、衝撃試験について詳しくお伝えしていきます。衝撃試験はどのように衝撃を与えるかによってさらに試験方法が分かれていきますので、代表的な試験を1つずつご紹介していきます。
目次
衝撃試験とは?
衝撃試験とは、その名の通り材料に衝撃を与え、壊れたときのエネルギーの大きさや壊れ方、亀裂の具合などを確認する試験です。ハンマーで叩いたり、おもりを落としたりして強度をチェックしていきます。
衝撃試験を実施することで材料や製品の「靭性(じんせい)」と「脆性(ぜいせい)」がわかります。衝撃試験では、破壊されるまでに使ったエネルギーが大きいほど粘り強く、靭性があると評価されます。
靭性
端的に表すと粘り強さです。
ダメージを受けてもすぐに破損せずにグニャッと変形していく性質で、たとえば銅や鉄、ステンレスなどの金属に靱性があります。力を加えてもすぐにパキッと折れず、徐々に曲がってから破損していくので、加工がしやすい性質を持っています。実際に靭性のある金属は鍋などの調理器具や自動車のボディなど、複雑な形状の材料に使用されています。
脆性
靭性と対語にあたり、文字通りもろさを表します。
力を加えるとあまり変形せずに壊れてしまう性質です。限界を超えた力が加わると急にピシッと亀裂が入ったり、崩れてしまうような性質で、代表的な材料はガラスです。限界を超えた力が加わると一気にパリンと壊れるので想像しやすいと思います。コンクリートや木材などは圧縮強度はあるものの、靭性はあまりない材料と言えます。
衝撃試験を実施する目的
衝撃試験を実施する主な目的は、衝撃に対する強さや壊れ方を知り、安心・安全なものづくりに役立てることです。
衝撃試験で得られるのは「衝撃に対する強さ」だけではありません。想定した力に対して「どのように壊れるか」を知ることができます。製品や構造物などをつくる際には、壊れないように設計することとあわせて、壊れ方まで考慮して設計することが重要になります。
たとえば、強化ガラスは安全に壊れることを想定した製品です。壊れにくいよう設計するだけでなく、想定通りに粒状に壊れてくれないと困ります。強化ガラスの割れ方はJISで決められているので、試験を行うことで規定の大きさの粒状に壊れるかが確かめられます。
このように、衝撃試験でさまざまな材料の衝撃に対する強さや壊れ方を確認することで、私たちが安心・安全に利用できる製品や構造物の実現に役立てることができます。
衝撃試験の対象となる主な製品
衝撃試験を実施する材料・製品は非常に広範囲です。
金属やガラス、木材やプラスチック、コンクリートなど非常に多くの材料で実施されています。衝撃試験を行う材料の使用先は自動車や建造物、航空機やロケット、原子力発電所の発電装置など多岐にわたります。過酷な環境に置かれても耐えられるかを確かめる重要な試験です。想定されるさまざまな使用環境下での衝撃を模擬的に与えて、材料や部品などの耐性を確認していきます。
また、梱包品(包装品)やスマートフォン、液晶ディスプレイなどの製品を調べることもあります。製品を指定した高さから落下させる試験や、固定した製品に鋼球を落下させる試験などがあります。試験装置の床面は鉄板がオーソドックスですが、実環境にあわせてコンクリートやカーペットなどを置いて調べることもあります。
衝撃試験は破壊するほどの大きなエネルギーが必要であり、危険を伴う試験です。試験で使用する試験機自体も、より安全に実施するため改良が重ねられています。
衝撃試験にはさまざまな種類がある
衝撃試験といっても1つではなく、「どのように衝撃を与えるか」によってさらに分かれていきます。いずれも「試験」と名がつくのでややこしいのですが、1つずつ丁寧にご紹介していきますので、じっくり読み進めて理解を深めていただければと思います。
アイゾット衝撃試験(JIS K 7110)
アイゾット衝撃試験は、試験片の片端を固定し、振り子式のハンマーで衝撃を与えて靭性を確かめる試験です。ゴルフのティーショットのようなイメージをしていただくとわかりやすいかもしれません。通常は試験片に小さな切り込み(ノッチ)を施し、ノッチがついている方向から打撃します。持ち上げたハンマーの角度と、振り落として惰性で持ち上がってきた時の角度を測定します。ノッチのあり・なしで測定結果を比較することもあります。
この試験は、試験片を破壊した後のハンマーの動きが重要になります。破壊した後に高く振り上がった場合は、試験片が衝撃をあまり吸収できなかったことになります。逆に壊した後のハンマーが振り上がらなかった場合は、試験片が衝撃を吸収できているということがわかります。
アイゾット衝撃試験は、金属やプラスチックなどさまざまな材料で実施されます。プラスチックに関しては温度によって衝撃強さが異なるため、低温・高温で実施されることもあります。
シャルピー衝撃試験(JIS K 7111-1)
シャルピー衝撃試験も、アイゾット衝撃試験と同様、振り子式のハンマーを試験片に当てて脆弱性をテストします。シャルピー衝撃試験では試験片の両端を試験機の台に乗せ、中央に振り子を打撃します。ノッチありの場合は、ノッチとは反対側に打撃を加えます。破壊するために使ったエネルギーから試験片の靭性を確かめていきます。
振り子式のハンマーは振り下ろした後、反対側に惰性で振り上がっていきます。この振り上がる角度を試験片を置かない時と置いた時で比較して靭性をチェックします。ハンマーが高い位置まで振り上がった場合は試験片が衝撃を吸収できなかったということ、あまり振り上がらなかった場合は試験片が衝撃を吸収できていると考えることができます。
シャルピー衝撃試験も金属や木材、プラスチックなどさまざまな材料で実施されます。
引張衝撃試験(JIS K 7160)
引張衝撃試験は、振り子状のハンマーで試験片を高速で引っ張り、強度を確かめる試験です。ゴムやウレタン(スポンジなどの素材)、フィルムなどのように柔軟すぎたり薄すぎたりする材料で実施されます。また、衝撃試験が強すぎてアイゾット衝撃試験やシャルピー衝撃試験では試験ができない材料にも適用されます。
具体的な試験方法は試験をする材料によって異なりますが、支持台に試験片をセットするインベース法(JIS K 7160-A法)と、振り子と一緒に振り下ろすインヘッド法(JIS K 7160-B法)が実施されます。
インベース法の例
引用:プラスチック用振り子型衝撃試験機
- 試験片(赤いフィルム)を固定する(インベース法)
- ハンマーで突出した部分を・・・
- 振り抜き、強く引っ張る
落球衝撃試験
落球衝撃試験は、一定の重量の鋼球を一定の高さから落として、材料や製品の強度を調べる試験です。スマホなどの試験体に向けて鋼球を落として強度を確かめていきます。
引用:軽量落下試験機
材料や製品の方を落とす自然落下衝撃試験も存在しますが、自然落下では落下姿勢が安定せず評価が安定しないことがあります。自然落下と同程度の衝撃を擬似的に与えるために開発されたのが落球衝撃試験です。
落球衝撃試験が実施されるのはバケツやプランターなどに使用される硬質プラスチック、昨今よく耳にするようになったアクリル、塗膜(外壁や屋根に塗装した塗料の膜)などの材料です。スマホやガラス製品などの製品も実施されることが多い試験です。
デュポン衝撃試験(JIS K 5600-5-3)
デュポン式落下衝撃試験は、塗膜(コーティング材)やプラスチックシートの強度を調べるために実施する試験です。コーティングやプラスチックは、衝撃を受けると割れや剥がれが起こることがあります。デュポン式落下衝撃試験で擬似的に衝撃を与えて材料の強度を確かめていきます。
引用:デュポン式落下衝撃試験機
デュポン式落下衝撃試験では、少し丸くへこんだ受台に、塗面を上にした試験片をセットします。そこに少し丸く出っ張った撃ち型を落下させ、試験片を取り出して室温で1時間放置します。その後、損傷の具合を目視で確認します。
落球衝撃試験との違いは、くぼみを持つ受け台や打ち型の存在です。これらを使用することで落球の衝撃と変形を同時を与えることができます。材料の使用環境に近い形で試験ができるということです。
ダートインパクト試験(JIS K 7124-1)
ダートインパクト試験試験はプラスチック板や建材用ボード、ガラスなどに半球状のダートを落下させ、試験片の破損の具合を調べる試験です。
A法では直径38mmのダートを高さ0.66mから落下させます。
B法では直径50mm、高さは1.5mから落下させます。
ダートにはおもりを付けることができ、衝撃の強さを調節することができます。
ダートインパクト試験の例
引用:衝撃性試験装置
- 試験片をセットする(写真はフィルム)
- 半球状のダートを・・・
- 落下させ、試験片の損傷具合を確かめる
- ダートインパクト試験では試験片に破損や貫通が見られるかどうかをチェックします。ダートの重さや落下の高さが増すと試験片が滑りやすくなるため、試験ごとに試験片の滑りを確かめる必要があります。
衝撃による破損や不具合を調べる衝撃試験
衝撃試験は、流通過程や使用環境で起こりうる衝撃を模擬的に製品に与える試験です。
製品の耐久性や壊れ方を調べ、私たちが安全に製品を使用できるようにするためには欠かせない試験なのです。
衝撃試験を実施した材料は、スマホやパソコンなどの電子機器、自動車や航空機などの幅広い分野に使用されています。
なお、材料や製品によって適切な試験方法は異なります。御社の製品が安全性・信頼性を得るためにどのような試験を実施すべきかを知りたい方は、検査・試験の知見に長けた検査コンサルティングサービスをご利用ください。
強度を調べる試験は衝撃試験の他にも
強度を確かめる試験は衝撃試験の他にも種類があります。衝撃試験の対象となる材料や製品ではこちらでご紹介する試験も対象になるケースが多いため、併せてご確認いただくことをおすすめします。
1. 引張試験
引張試験は、材料の両端を両側に引っ張り「引張強度」を調べる試験です。先ほど紹介した引張衝撃試験とは別物で、こちらは所定の速度で引っ張っていきます。
詳しくはこちらの記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
2. 圧縮試験
圧縮試験は、材料にゆっくり荷重を加えて変形の具合や耐圧性を調べる試験です。プラスチックなどの素材やダンボールなどの包装貨物の強さを調べます。
こちらも別の記事で詳細をお伝えしています。