耐熱性試験は、製品の温度に対する耐性を調べる試験です。文字を見るとなんとなく想像はできるでしょう。しかし、実際どのような場面で試験が必要となるのか、ご存知でしょうか?
この記事では、耐熱性試験の概要や試験方法について、わかりやすく解説します。耐熱性試験以外にも、用途や機能によって必要とされるさまざまな試験についてもプラスチック製品を例に説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
耐熱性試験の概要・得られるデータ
耐熱性試験とは、製品を高温状態に保持し、どれくらいの温度まで耐えられるのかを調べる試験です。
合成樹脂加工品や合成ゴム製器具においては、家庭用品品質表示法で耐熱温度の表示が義務付けられているものもあります。家庭用品品質表示法とは、消費者が日常的に使用する製品を対象として制定された、品質や取り扱いについて正しい表示を義務付ける法律です。樹脂製コップやお弁当箱の底面に、耐熱温度が表示されているのを見たことがある方もいるでしょう。製品が耐えられる温度を超えてしまうと、変形や機能の損失、破損などにつながる恐れがあり、やけどやケガの危険も考えられます。そのため、熱による影響を受けやすい製品については、耐熱温度の表示が義務付けられているのです。
家庭用品品質表示法で表示が義務付けられている製品には、お皿やまな板、水筒、浴槽蓋など、さまざまなものがあります。詳しい知識を持っている方なら、材質を見ておおよその耐熱温度を判断できる可能性もありますが、一般の消費者はそうとは限りません。製品に耐熱温度の表示がないと、温かい飲み物を入れたり熱湯消毒や食器洗浄機を使用したりしても大丈夫なのか、不安に感じてしまうこともあるでしょう。耐熱性試験を行って耐熱温度を製品に表示しておくことは、家庭用品品質表示法を遵守することに加え、消費者が安心して製品を購入するための判断材料となるでしょう。
また、電子部品の高温環境化での動作確認や、消防活動に使う防火服の性能を確認する目的で、耐熱性試験を行うこともあります。その結果をもとに、機械の熱に耐えられる電子部品の開発や、消防士の方が着用する防火服の安全性確保に役立っています。
耐熱性試験は、製品や部品、原料などの温度に関する耐久性を調べるため、さまざまな分野で活用されている試験のひとつです。
耐熱性試験の主な試験方法
製品の分類や目的、該当する法規制などにより、耐熱性試験の試験方法は異なります。今回は、家庭用品品質表示法で定められている耐熱性試験の試験方法について解説していきましょう。
家庭用品品質表示法では、耐熱性試験はJIS S 2029の規格に基づいて行うよう定められています。JISとは「日本産業規格」のことで、製品や技術の品質や安全性などの確保を目的として制定された規格です。JIS S 2029は「プラスチック製食器類」についての規定で、プラスチック製食器類の定義や試験方法について定められています。そのため、JIS S 2029で定められた耐熱性試験を行い、算出した耐熱温度を製品に表示する必要があります。
試験は、空気攪拌機能付きの恒温槽を用いて行います。恒温槽とは、長時間一定の温度を保つことができる、扉の付いた箱型の機械です。
耐熱性試験は、下記の方法で行います。
- 恒温槽を、製品に表示されている耐熱温度±2℃になるように調節します。
- 製品を恒温槽に入れて、1時間保持します。
- 1時間後、製品を取り出して常温で30分間放冷します。
- 恒温槽に入れる前と比べて、製品の形状や色、機能に変化がないか観察します。
製品の耐熱温度を求めたい場合は、恒温槽の温度設定を変えながら繰り返し試験を行います。温度設定は50℃を起点とし、10℃ずつ上げていきます。原料の特性などから耐熱温度が推定できる場合は、50℃以上からスタートしても問題はありません。製品に異常が出た設定温度から10℃引いた温度を、製品の耐熱性温度として算定します。製品の異常とは、ゆがみや変形、変色、機能性の変化などを指します。
また、蓋と容器のように、取り外し可能なものについては、それぞれ別に耐熱性試験が必要です。製品自体が大きくて恒温槽に入りきらない場合は、一部分を切り取って試験を行うことが認められています。
合成樹脂(プラスチック)製品に関するさまざまな試験
プラスチックは、その軽くて強度が高い特性や成形加工のしやすさから、製品の材料や機械部品など、多種多様な用途で使われる素材です。そのため、耐熱性試験だけではなく、使用する用途に合わせたさまざまな性能試験が行われています。
例えば、食品保存に使用するプラスチック容器や調理器具などは、食品衛生法の規格基準に適合しなければいけません。そのため、材質試験や溶出試験の実施が定められています。材質試験では、使用してはいけない化学物質が基準値以上に含まれていないか、溶出試験では、食品との接触により化学物質が溶け出さないかを分析します。
また、乳幼児が口に含む可能性があることから、おもちゃも食品衛生法の対象です。それに加えて、おもちゃには子供の安全を守るためのST基準があります。小さな子供の指が挟まってしまう危険や、誤飲による窒息の可能性がないかを検査する物理的検査、やけどなどの事故を防ぐための可燃性検査などが行われます。
冷蔵庫や冷凍庫で使う収納用品なら耐冷性試験、抗菌加工を施したスマートフォンケースなら抗菌試験、物をかけて使用するハンガーなら耐荷重試験のように、製品の機能を証明するための試験も行われています。
それ以外にも、品質確認や原料選定時など、プラスチックの性能を知るための試験もあります。下記に試験を一部抜粋しました。
合成樹脂(プラスチック)製品に関する試験の例
- 機械的性質を評価する試験:引張試験、圧縮試験、衝撃試験、クリープ試験など
- 熱的性質を評価する試験:線膨張率試験、荷重たわみ温度試験など
- 光学的性質を評価する試験:全光線透過率、屈折率、鏡面光沢度法など
- 電気的性質を評価する試験:電気絶縁性、絶縁破壊電圧、誘電性、耐アーク性など
- 耐劣化性を評価する試験:屋外暴露試験、促進耐候性試験、熱老化性試験など
- 物理化学的性質を評価する試験:吸水率測定、耐薬品性試験、ガス透過度試験など
参考元:https://minsaku.com/category01/post206/
家庭用品品質表示法に基づき適切な品質表示を行いましょう
家庭用品品質表示法で定められている試験や表示は、消費者が正しい製品選択を行い、安全に使用するための欠かせない情報です。試験結果に基づいた適切な品質表示は、消費者にメリットがあるだけではなく、用途に合った使用を消費者に促すことで、最終的にクレームや重大事故を未然に防ぐことにもつながります。
また、製品の分類によって耐熱性試験の試験方法は異なります。耐熱性試験を依頼する場合は、該当する試験を行える検査機関を探して依頼しましょう。耐熱性試験以外にも、該当する法令を遵守するための試験や、機能を証明する試験など、製品の特長・使用方法に合わせた検査を実施することも大切です。
特に、今回解説をした耐熱温度は、製品の破損や消費者のケガにつながりかねない重要な項目です。家庭用品品質表示法に該当する合成樹脂加工品など、製品に耐熱温度表示が必要な場合は、消費者と事業者双方のメリットのためにも、耐熱性試験を実施して適切な品質表示を行いましょう。