JIS規格は身の回りにある多くの製品などで活用されています。しかし、聞いたことはあっても詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。この記事では、JIS規格の目的や実際に活用されている製品の実例、取得方法などをわかりやすく解説します。品質や安全性を示す指標となる、JIS規格への理解を深めましょう。
目次
JIS(日本産業規格)とは?必要な理由は?
JISはJapanese Industrial Standardsの略語で「日本産業規格」のことを表します。国内産業の標準化を目的として「産業標準化法」により制定された国家規格です。
もともとは「日本工業規格」と呼んでいたため、こちらの名称は耳にしたことがあるかもしれません。令和元年7月1日の法改正により「工業標準化法」が「産業標準化法」に変更となったことを受けて「日本工業規格」から「日本産業規格」に名称が変更されました。
日本産業規格は、さまざまな製品の形状や寸法、品質などの仕様や、加工技術などについて定めている規格です。製品や技術に一定の標準を設けて全国的に統一し、互換性や品質の確保、安全性の確保を行うことを目的としています。
例えば、パソコンなどのコンピュータ製品で使う日本語キーボードは、文字配列がJIS規格で定められています。もし製品ごとにキーボードの文字配列が異なっていたら、不便で使いにくいことは容易に想像できるでしょう。消費者が一時的にほかのキーボードを使っても操作性が変わらないのは、JIS規格により標準化されていることが理由です。事業者にとっても、消費者のニーズに合わせてキーボード配列を変える必要がないため、生産効率の向上につながります。
また、必要な審査を受けて基準に適合していると認証された製品や技術には、JISマークの表示が可能です。JISマークは基準に適合していなければ使用できないため、JIS規格で定められた品質や安全性が確保された製品であることを証明できます。
JISマークはこんな製品に活用されている
JISマークが実際にどのような製品で活用されているのかを見てみましょう。
ヘルメット
ヘルメットの規格には「産業用ヘルメット(JIS T 8131)」「乗車用ヘルメット(JIS T 8133)」「自転車用ヘルメット(JIS T 8134)」の3種類があり、衝撃吸収性や耐貫通性など、人の頭部を危険から守るための安全性能をチェックしています。使用するシーンにより求められる強度が異なるため、試験方法や検査内容、認証条件は同じではありません。ヘルメットにJISマークがついていれば、それぞれの用途に合わせて検査したJIS規格適合のヘルメットだと判別できるので、消費者は安心して購入できるでしょう。
靴
靴には、使われる素材や靴の種類が多数あるため、多くのJIS規格が定められています。なかでも身近なのは「靴のサイズ(JIS S 5037)」でしょう。サイズ測定方法や、靴へのサイズ表記を定めている規定です。また「革靴(JIS S 5050)」では、摩擦による色落ちや使用素材の強度、靴底がはがれやすくないか、建築業などで用いられる「安全靴(JIST8101)」では、先芯の衝撃や圧迫に対する性能など、安全性にかかわる試験も必要です。目的に合わせた基準を設けることで、多少の衝撃では壊れない、丈夫な靴が製造されているといえるでしょう
マスク
マスクのJIS規格は、新型コロナウィルスの感染によるマスク需要の増加により、布マスクやウレタンマスクなど、マスクの多様化が進んだことを受けて、2021年6月に制定されました。制定された規格は「医療用及び一般用マスクの性能要件及び試験方法(JIS T 9001)」と「感染対策医療用マスクの性能要件及び試験方法(JIS T 9002)」の2種類です。どちらも、ウイルスや花粉などの捕集機能、通気性、安全・衛生面を考慮した試験項目など、さまざまな規定があります。パッケージなどのJISマークを確認することで、一定の性能基準を満たしたマスクを消費者が安心して購入できるようになりました。
バッテリー
国産自動車のバッテリーにある「40B19L」などの表記。これもJIS規格によるもので「始動用鉛蓄電池(JIS D 5301)」で、性能ランクやバッテリーサイズなどの表示が定められています。バッテリー自体に表示することで、バッテリー交換時に消費者が自分で互換性がある製品を判別できるようになり、利便性のアップにも役立っています。
QRコード
たくさんの情報量を、小さなスペースで表現できるQRコード。開発した日本企業の「多くの人に自由に使ってもらいたい」との思いから、QRコードの仕様は公開されています。JISでの規格化も行われ、制定された「情報技術-自動認識及びデータ取得技術-QRコード バーコードシンボル体系仕様(JIS X 0510)」の閲覧も可能です。仕様がオープンになっていることで、事業者も個人も安心して利用できるため、多くの分野で導入が進み、現在は海外での活用も広まっています。
また、JIS規格が活用されているのは、JISマークがついている製品だけではありません。
ブラジャーなどの下着や衣料品では、JISマークの表示を見かけることは少ないでしょう。しかし、実際に着用しなくても大体のサイズを選べるのは、JIS規格でサイズが規定されているからです(メーカーによっては独自でサイズを設定している場合もあります)。
そのほかにも、ドライバーならネジとの互換性を保つための細かいサイズや硬さ、エアコンは運転性能やエネルギー消費効率、エレベーターは負荷をかけた場合の安全性や速度など、さまざまな製品に品質保持や安全性確保のための基準が設けられています。
このように見ていくと、JISマークの有無にかかわらず、身の回りにある多くの製品でJIS規格が活用されていることがわかるでしょう。
JISの認証取得までの流れや費用について
JISの認証を取得するためには、国に登録された登録認証機関の審査を受け、JIS規格に適合していると認められる必要があります。該当する製品や技術の試験以外に、工場や作業場の品質管理体制が基準に適合しているかも審査の対象です。
登録認証機関は申請する事業者が自由に選択できますが、登録認証機関ごとに認証対象としている製品や技術が異なります。登録認証機関一覧と認証対象の区分については、下のホームページで確認できます。「鉱工業品等の区分」の欄を参考に登録認証機関を選び、問い合わせをするとよいでしょう。
- 日本産業標準調査会
日本産業標準調査会:データベース-登録認証機関一覧
JIS認証取得までの流れ
- 認証の申請
- 工場審査、製品試験
- 認証決定
- JISマーク使用許諾契約の締結、表示の確認
- JIS適合性認証書の発行、認証製品の公表
認証後は定期的な認証維持審査が必要となります。認証取得までの期間は規格によっても異なりますが、3~4ヵ月程度かかるのが一般的です。海外の工場や長期間の試験が必要な場合は、さらに時間を要することもあるため、ご注意ください。
また、認証手続きにかかる費用は、登録認証機関や製品規格、工場の場所、条件により異なります。各登録認証機関のホームページに掲載されている料金表でおおよその目安は立てられますが、諸条件により変動する可能性も。そのため、具体的な費用を知りたい場合は、問い合わせで詳細を伝え、見積もりを出してもらうことをおすすめします。
JISは消費者と事業者をつなげる安心の架け橋
JISは国内産業を標準化し、互換性や品質の保持、安全性の保持を目的として制定された規格です。JIS規格の活用は、消費者の製品選択の助けになるだけではなく、事業者が製品の品質を高め、安全性などの機能を消費者にアピールすることにもつながります。
さまざまな厳しい基準で審査され、安全性や機能性を証明された製品の証明として、JISを活用してみてはいかがでしょうか。