みなさんは、引張試験がどのようなものか知っていますでしょうか。
製品や建物を構成する各部材の性質の中には引張強度といわれるものがあります。例えば、コンクリートであれば圧縮力には非常に強いですが、引張抵抗は弱い側面があります。コンクリートに引張強度を持たせるため、鉄筋コンクリートとして圧縮力にも引張力にも強い製品を構築するのです。
このように、母材の力を強めるための引張強度ですが、その力がどの程度あるのかを適切に把握しなければなりません。
本記事では、引張試験の内容や目的等についてご説明したいと思います。
目次
引張試験の概要・得られるデータ
引張試験とは、試験の対象となる物体に引張荷重を載荷させ、応力やひずみとの相関性を確認し、比例限度・弾性限度・下降伏点・降伏点・最大応力などを確認するための試験となっています。
物質が引っ張られる力が「引張力」なのです。
鉄筋などの材料を想像してもらい、その物質の両側を外側に引っ張る力です。物質に対して引張力が働くと、必然的に物質が伸びます。これを、物質のヤング率 (縦弾性係数) として表すのです。この試験を行うことによって、物質の強度や伸長率が数値化されます。
さらに引っ張る力を載荷し続けると、物質は比例限度を迎えます。物質に対する載荷によって比例限度を超過すると、応力とひずみの比例関係であるフックの法則が崩壊します。さらに引っ張る力を載荷し続けると二度と元に戻らない永久ひずみが残存する弾性限度と降伏点を迎えます。物質が降伏点を迎えると、応力は下降伏点と称される状態に入ります。
ここからが、本議題となっている引張強度になります。引張強度は、荷重が最も大きく載荷されて応力が発生している状態です。物質が引っ張り続けられて破壊するまで試験を継続して、求めている引張試験の結果が判明するのです。
引張試験の目的は、物質がどこまで伸びて、どこで破壊されるかを確認することによって物質の引張強さを確認することにあります。
引張試験によって得られるデータ
引張試験によって得られるデータは次のとおりです。
- 弾性率
- 弾性限度
- 弾性係数
- 比例限度
- 上降伏点
- 下降伏点
- 引張強度
- 破断点もしくは破断の有無
- 強さ
- 伸び量
- 絞り量
- ポアソン比
引張試験の主な試験方法
試験方法は、引っ張る製品によって異なります。実際に引張試験を検討されている場合は、検査会社に問い合わせ詳細な試験方法を確認するようにしてください。
非常に細かい部分までJISなどによって定められています。
ここからは、JIS L 1096 A法で定められているストリップ法の試験方法についてご説明します。ストリップ法は主に布帛・織物生地についての基本的な強度を計測する試験です。また生地もの以外 (バッグ、雑貨) の機能的な各部位の強度を確認する場合にも頻繁に使われる試験になります。
- 引張試験器に試験対象となる試料は、長さ約300㎜・幅50mmのサイズとし、縦・横の各々の方向に対してサンプリング。サンプリングした試験体は、引張試験機の上下にあるクランプに設置します。
- つかみ幅は200㎜のサイズで、1分あたり200㎜の引張速度を与えます。
- 試験の結果は、対象となる物質が破壊した時のマックス値です。
JISでは降伏点となる降伏応力が定められており、金属で構成されている物質が降伏現象を表すと、試験力が一切増えない状況下にあって試験の最中に塑性変形が生じる応力であるとされています。
また、伸びについてもJISでは定められています。
- 伸びとは、試験の最中における任意時点での原標点距離増分
- 伸び%とは、原標点距離の増えた量であり原標点距離と比較しパーセントで示す
- 永久伸び%とは、規定した力を取り除いた後、原標点距離の増えた量であり原標点距離と比較してパーセントで示す
- 破断伸び%とは、破壊されたあとの永久伸びであり、原標点距離と比較してパーセントで示す
- 破断時全伸び%とは、破壊したときのすべての伸びであり、伸び計標点距離と比較してパーセントで示す
なお、引張試験は試験結果だけを見ても意味がありません。試験によって求められた数値を思慮深く考察して初めて意味を持ちます。
考察する内容は次のとおりです。
- 降伏点と引張耐力の数値を確認し、試験で求められた結果と机上の理論で求められている数値とを比較する。
- 応力ひずみの関係について、グラフによる可視化を行い机上の理論で求められている数値と比較する。
伸び及びひずみに対しても、上記同様の考察を行うようにしましょう。
他の性質性能試験について
物質に対する性質性能試験は、上述した引張試験だけではありません。
その他にも多種多様な試験がありますが、もっと大分類の視点で試験の概略をご認識いただきたいと思います。
上述したような引張試験は、大分類の「静的試験」に該当します。また、「動的試験」というものも存在します。
ここからは、静的試験と動的試験についてご説明したいと思います。
静的試験
静的試験とは、その名のとおり物質へと一気に力をかけるのではなく、徐々に力を載荷することによって、試験の最中に物質が変形するたびに加えている力を止めて各種部分のひずみ及び変形の進行程度などの機械的性質が確認できる試験です。時の流れや力が加わる速度の影響を享受することなく、自然に力が加わっていくといった状況を作り出しています。そのため、遅々とした速さで載荷することを目的としています。静的試験では、引張・圧縮・せん断・ねじり試験・クリープリラクセーション試験等が存在します。
動的試験
動的試験は、静的試験とは対称的に一気に力をかけて行くイメージです。時間によって加える力・早さ・周波数等の違いがもたらす影響についても熟慮し、リアルに近い状態で物質に負荷が状態を再現していると考えられる力によるひずみや変形といった動的性質を確認するのです。静的試験と比較すると、非常に速いスピードをもって何回も荷重を載荷させ、物質へ疲労や衝撃による破壊を計測します。動的試験では、衝撃・疲労・摩擦・摩耗・発熱試験等が存在します。
また、規定のストレス及び持続性や反復的印加が物質の性質へと与える影響調査が目的で、一定期間に継続して行う試験となっており、物質の故障が生じるまで行うときは、寿命試験とも称される耐久試験。シリコーンゴム等の合成ゴム製の容器などキッチン用品がどの程度の温度に達すると耐えられなくなるのかを調査する耐熱試験。
これらの試験についても、他の性質性能試験として該当しますので、別記事にて詳細はご紹介したいと思います。
JIS規格などに準拠した試験で安全性を示しましょう
ここまで、引張試験の内容や目的等についてご説明させて頂きました。
上述したように、引張試験とはJISに準拠しており正確に測定されることが求められています。
金属材料の引張試験に関する基本的なJISだけでも数種類存在していることから、試験方法について公的機関を通じて精緻に管理されていると思われます。それだけ、引張試験で示される数値と言うのは信頼度が高いと断言できるのです。信頼度の高い数値が公表されることによって、安全性が確保されているとも言い換えることができます。我々が何気なく送っている日常生活の中にも、身近なところで引張力と言うものは働いています。鉄筋を初め、部材に引張強さを持たせることは非常に大切であり、これらの応力が適切に作用することによって安全・安心・防災・減災といったインフラ施設や住宅を含む各種構造物が安全であることに寄与しているのです。
本記事をご覧になられた方が、少しでも引張試験に対してご理解いただけたのであれば幸いです。